私たちの訪問看護ステーションでは、医療的なケアだけでなく、「聞き書き」というケアにも取り組んでいます。今回はシリーズ8回目。訪問スタッフ=「ケアライター」によるJさまご家族への聞き書きをご紹介します。
『あの時のうまさが忘れられない』
語り手:利用者Jさま
聞き手:名北店看護師
私はね、あっちこっちで働いてたのよ。
どこが住みやすかったかな。私には都会が住みにくかったかなー。
成人になる前には都会にいたんですよ。戦時中だったからね。
あの頃、全然眠れなかったなー。毎日、空襲がバンバン来てね。
防空壕?あれは、自分で自分の分を作るんだけど、
空爆の直撃をくらったら意味がなくなっちゃうからね。
だから、防空壕に荷物だけ入れて、身ひとつで逃げてたよ。
林に逃げていくんだけど、さて困った。周りの林が空襲で燃えてね。
逃げ場がなくて、身動きがとれなかったことがあった。
そこに私と同じで逃げてきた4、5人おったんだけど、
みんなで切り株に座って
「もう燃えて死んだら死んだでしょうがない!」って
朝が明けるのを待った。
まあ、朝には火が落ち着いて生きることができたけど、煙で目がやられたねー。
なんとか住んでたところに戻ると、あたり一面焼け野原だったな。
友人に再会して「あんたどこにいってたの?」と問われて、
「いや、逃げてんたんだって!」と私は答えたよ。
「そしたら、食べるものがないから探してきて!」って言われたさ。はは。
でもね、なーにもないんだわ。
荷物を入れた防空壕もどこなのかも判らなくなる焼け野原なもんでね。
ただ、大豆があちこちに落ちていたから、
空襲で残っていた火で、豆を湯がいて食べたんだわ。
あれはうまかったなー。
生きてるってこういうことなんだろうなと思ったよ。がははっ。
あの豆の味は、今も忘れられんな。
(了)
※「聞き書き」とは、語り手の話した言葉をそのまま書き止め、語り手が目の前で話しているかのような文章としてまとめる手法です。みんなのかかりつけ訪問看護ステーションにとっての「聞き書き」は、ご利用者さまやご家族といった「語り手」の気持ちを聞き、言葉という文章に代えて手紙に綴るというもので、「ケア」の一環でもあります。
この「聞き書き」というケアは、ときには語り手が胸の内に秘めた想いをすくい取ることだったりします。それは意思決定支援の場面や、グリーフケアで活躍します。社内では、そんな取り組みをしているスタッフを「Care Writer(ケアライター)」と呼んでいます。
※掲載については、ご本人またはご家族の承諾を得たうえでご紹介しています
※聞き書きの内容は、個人が特定されないようアレンジしていることがあります